失恋、そして結婚

当社の26才の事務員(ここでCと呼ぶ)が、取引先の営業社員(D)と交際していたことがある。

その子は総務部だったが、総務には私の親しい部下が何人かいた。

私は、営業部は土地の売買や建築の注文での打ち合わせで、総務部は、通常の書類以外に原価率の計算や、売上予測、費用予測など様々な書類のデータを出させて、経営の先読みに利用していたので、よく出入りしていた。

 

総務部の(以前、宗教法人に派遣したと書いた従業員)課長で、私には何でもよく喋ってくる30そこそこの男の子だった。

 

彼が彼女Cのことも色々喋ってくれた。

それをストーリーにすると

 

CがD と出会ったのは、もちろんD が何度となく当社に出入りしていたから。

CとDは、食事に行ったり、ドライブや映画に行ったりしているうちに、仲良くなった。

C は26、D は28。

C は数ヵ月付き合うと、結婚のことを考え始めた。Dはどう考えているのだろう? 

 

何度会っても、彼からそれらしい話はない。

D は外見的にはそこそこイケメン、身長は174cm、中肉中背といった子だったが、付き合って色々楽しい記憶もあり、C は彼が同意してくれれば問題はなかった。

 

この事を母親に相談した。母親は、

ーもうお前もそんな年だし、相手さえ良ければ結婚したら。ー

ーところで、彼は月給いくらぐらい?ー

(親はすぐこれだ)

 

次に会ったとき、C は意を決して彼に訪ねた。

ー結婚って考えたことある?ー

そうすると彼は、複雑な表情になって、少し考えた後、答えた。

ーある。君とのこと真剣に考えている。ー

(C は嬉しかった。本当は飛び上がりたいくらい!)

ーしかし、難しい問題が。...親が持病があって、いつも病院通い。それに、まだ僕の収入は、結婚生活出来る程の状態ではない...ー

(D の両親は離婚していて、母親に育てられたというのは知っていた。)

Cは聞いた。

ーD 君の収入っていくらぐらい?ー

ー手取り23万円。ー

ー分かった、有難う。私も考えます。ー

その日は食事をして別れた。

 

次の夜、C は父親に言った。

こういう男性がいるんだけど、結婚したいと。

父親の答

ーそんなんやめておけ! 病気の母親に低収入! 話にならん!ー

いつもこんな感じの父親で、C は想定内だったけど。

 

その後、Dとは10日以上会っていなかった。Dとメールのやり取りは時々していたが、Dが忙しいのか会えなかった。

 

2週間以上会っていないDから、夜電話が来た。

ーあれからもずっと考えていたけど、結婚はやっぱり無理だ。...君と付き合っててとても楽しかったし、幸せだった...ー

....................................

涙が出てとまらなかった。

 

C は落ち着くために、会社を当分休むことにした。

5日間、年休をとった。

 

翌朝ATM から少し纏まったお金を引き出して、自宅近くから電車に乗った。品川に着いた。

京都に行ってお寺でも見ようか、それとも近くの熱海、伊豆に行って、海を見ようか?

結局特急に乗って、熱海に行くことにした。

 

昼間海岸の砂場で海を眺めて、夜旅館で1泊。

(母親に連絡。もう別れたよ、と。)

御馳走を目一杯食べて休んだ。

 

しかし都内に帰っても、なんかモヤモヤ、スッキリしない。そうだ、大学の同級生とワインでも飲みに行こう!

電話をすると3人集まった。

ー今日は私の奢り、ジャンジャン呑んで!ー

気前いいC だった。

皆と4時間は飲んだだろうか?

かなり酔っぱらって帰った。

 

その夜、なんとD から電話があった。

何の話?  明日夕方会いたい、ということだった。何の話かわからないが、行くだけいってみよう。

 

彼に会うと、

彼の母親は、会社経営の叔父が病院に入れてくれ、もう心配ない、ということだった。

そして

ー僕と結婚して欲しいー

(えっ、まさか?....)

まさかの大逆転劇!

...涙(こんどの涙は嬉し涙)

(2人は結婚し、取り敢えず2人共稼ぎで生活。彼は収入を上げるために、国家資格をとる勉強を始めた。)

Cは無論、言いっぱなしの父親も口説いた。

母親は、彼をちょっといい男と思ったのか、すぐ認めてくれた。