A君のアクシデント


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仕事は細かい設計の事はサポートしてくれる建築士(社員)がいたし、順調だった。

大学は建築科ではなかったが、子供の頃から親父の事を見ていたので、そこそこ図面は描けたし、ここ1,2ヵ月建築士がサポートしてくれて、細かい設計の事がわかり、お客さんへの対応はほぼひとりで出来るようになった。

 

客は、今までの客の紹介が最も多く、広告からの問い合わせもあった。

営業部員は7名だったが、他の6名はほとんど自分の顧客を持っており、広告からの新しい客は、A に回ってきた。

 

Aは学生の頃から、人との対応は得意だった。

だから回ってきた客の70%以上は、契約出来た。これは新規顧客獲得率でいうと、最高の部類にいる確率だった。なぜなら客は他の設計会社や、建築会社にも相談に行っている可能性があったから。

彼の童顔(ベビーフエイス)も客に安心感を与えたのかもしれない。

 

ところで彼の給与体系はどうなっていたか?

基本給は20万円と低かったが、これに歩合給が加算される。

歩合給は、設計し、契約する建築物の額で決まった。

例えば3000万円の契約だと30万円が、5000万円の契約だと50万円(1%)が加算された。

これは大きかった。

 

入社1,2ヵ月は1件の契約しかなかったが、3カ月目以降契約件数は2,3件は確実にいった。

だから入社数ヵ月で、100万円前後(手取り約70万円)の報酬はあった。

 

しかしある日顧客と打合せ終了後、会社に帰る途中、事故を起こしてしまった。

(好事魔多し、ということか)

 

実は前方を幌を付けたかなり大型のトラックが走行、ある瞬間急ブレーキをかけた。後ろを走っていたA は、トラックの後部に衝突。

トラック運転手は赤信号に換わった瞬間ストップ。信号がその車の幌で見えなかったA は当たってしまった。

 

車間距離不足。前方不注意。

会社に電話して、事故ったので遅くなると報告。

警察をすぐ読んで、現場検証。保険会社にも連絡。

 

Aもブレーキは踏んでいたので、物損は大したことはなかった。

相手はA よりはかなり上の30過ぎと思われた。一見しての感じは、わるそうな人ではなかった。

(痛くなくても、痛いと言ってゴネてくる人、けっこういるらしいから。)

 

相手の会社はAの会社から数キロメートル離れた隣の市の運送会社だった。

相手と名刺交換して別れた。

 

相手が怪我していなくて良かった。

お客さんを乗せていなくて良かった。

とA は思った。

 

会社の事故担当者に報告。親父にも一応言った。

親父は相手の状態を聞き、お前も怪我無くて良かった、と言った。後は保険会社がやるだろう、と。

 

これがA 最初の事故だった。

もう事故は2度と起こさないと思った。